囁く鏡
真夜中、閑散とした古いアパートの一室で、ミキは寝付けずにいた。彼女は先日、古道具屋で買った美しい骨董の鏡に目を奪われていた。鏡は彫りが深く、繊細な花の模様が込められていた。ミキは鏡の前に座り込み、自分の姿を眺めた。
突然、鏡の中のミキの姿が微笑んだ。ミキは驚愕し、後ろに飛び退いた。しかし、その後すぐに鏡の中の彼女は再び動かなくなり、まるで何もなかったかのように普通の鏡に戻った。
その夜、ミキは何度も目を覚ました。彼女は寝室からこぼれる月明かりが、骨董の鏡の表面に幻想的な影を描いているのを見た。そして、彼女は耳にした。囁く声が、鏡から聞こえてくるようだった。
ミキは鏡に近づき、耳を澄ませた。声は低く、甘い囁きで、「ミキ、おいで、私たちの世界へ」と言っていた。恐怖に駆られたミキは、鏡を布で覆い隠し、ベッドに戻った。
翌朝、ミキはその鏡について調べることに決めた。彼女は古道具屋に戻り、店主に鏡の話をした。店主は顔を青ざめさせ、言った。「それは呪いの鏡だ。鏡の中には、昔の持ち主たちの魂が閉じ込められている。彼らは新しい犠牲者を求めて囁くのだ。」
ミキは急いで家に戻り、鏡を見つめた。布を外すと、鏡の中には彼女自身ではなく、過去の持ち主たちが映っていた。彼らはミキに手を伸ばし、囁いていた。「ミキ、おいで、私たちの世界へ。」
彼女は恐怖に駆られ、鏡を床に叩きつけた。しかし、その瞬間、鏡は再びミキの姿を映し出し、彼女の顔には悲痛そうな笑みが浮かんでいた。ミキは必死に泣き叫び、鏡を壊そうとしたが、どれだけ力を込めても鏡は割れず、逆に彼女の手が痛みに悶えた。
過去の持ち主たちの囁きはますます強くなり、彼らの手が鏡の中から伸びて、ミキの手首を掴んだ。彼女は必死で抵抗したが、次第に力が抜け、鏡の中に引きずり込まれていった。
ミキの姿が消えた後、鏡の中には新たな魂が加わっていた。彼女もまた、過去の持ち主たちと共に新しい犠牲者を待つことになる。そして、その骨董の鏡は誰もいない部屋でひとり、囁く声とともに闇に包まれていた。
数日後、古道具屋の店主はミキの失踪を知り、罪悪感に苛まれた。彼は鏡を遠くの森へ持って行き、呪いが誰にも影響を与えないよう埋めた。しかし、彼は知らなかった。ある日、また誰かがその森で鏡を見つけることを。そして、囁く鏡は新たな犠牲者を求め続けるだろう。